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残れば全て廃棄処分

贈り物をされるととても嬉しい。それが自分の好きなものであるならなおさらだ。

 だが、その嬉しさを保つためにも気をつけなければならないことがある。どんな贈り物でも、出所を問わないことだ。それを聞いてしまうと、場合によっては散々な目に会うだろう。そして、アーネストは今、そのことで後悔する羽目になりそうだった。

 

「あげるわ」

 

 短い言葉を添えてロウアが紙袋を渡してきたのが数分前。紙袋の中にはアーネストが好きなロックバンドのスリーアウトマクガフィンズの初回限定盤のCDが入っており、驚きと嬉しさでつい聞いてしまったのだ「これどこで手に入れたの」と。

 その言葉に対し、ロウアは「もらった」と一言だけ帰してきた。

 

「誰に?」
「二コルに」

 

 このロックバンドにひとつも関心がなさそうなあの二コルからもらっただって?

 しかもアーネストが好きだって言ってたからあげといてくれって、ロウアに言ったとか? 繰り返すけどあの二コルが? 興味がないものはゴミ箱にすぐぽいって捨ててしまうあの人が?
なんてこったい。一体どういう事なんだ!

 

○○○

 

「ちょっとニコルさん。あのCD、どこで手に入れたんですか!?」

 

 カフェ・アンブローズにてコーヒーを啜っているニコルに、飛びつく様にして聞いていた。正直、アーネストはこのCDを欲しいと思っていたが、手に入らないと諦めていたからだ。限定盤と言われるだけあって、全世界で三千枚くらいしか作られていないという。某通販サイトでは予約が殺到。予約開始から数分で売り切れとなってしまった。予約を取り扱わず、なんとか仕入れたCDショップでも、発売と同時に売れてしまい、多くのファンが手に入らなかったと、嘆くことになったのだ。アーネストも、嘆いたファンの一人である。大学の講義中に予約が開始された挙句、大学の講義に出席していたら、店頭販売分も売り切れてしまった。買うことはもちろん、買うために行動を起こすことすらできなかったのだった。

 

 そのため、ロウアから貰った時につい聞いてしまいたくなったのだ。売り切れたものが手元にあることが不思議でならなかったし、ファンの誰かが手放すなんてことは考えられなかったから。どこをどうしたらこのCDが手に入るのか。ニコルの名前が耳に入った当たりで、若干嫌な予感はしたが、出所がそこだとしたら聞かざるを得ないと感じた。
正直な気持ちを述べると、ニコルがこのCDを手に入れたルートを活用したかったに尽きる。誰だって欲しいものが確実に手に入るというのなら、その手を使いたいと思うだろう。そう、目的のために手段は選べないのだ。

 

「あー。あのCD?」

 

 雷がなったときのアヒルのような顔をしていたニコルが、何かを思い出したかのようにアーネストに聞き返した。

 

「そうです。 どこであれを手に入れたんです?」
「転売屋から」
「はあ!?」

 

 思わず、大声が出た。探し求めていた入手経路には、転売屋が一枚噛んでいたのである。確かに目的のためなら手段を選べないと言ったが、これは選ばせてほしい。アーネストは、転売屋が大嫌いだ。

「儲かるから」という理由で手に入りにくいものを買占め、オークションで高値で売るやつらのことだ。彼らは生産者や販売者、そして何よりもそれを手に入れたい需要者の利益を損ねていく。インターネットが普及した現在、社会問題になっているとアーネストは思っている。せどりをしている人も転売に値するものがあるため、転売業者のすべてが滅べとは言わないが、他者に利益より損害を与えるだけのものは、即刻この世からご退場願いたいと思っていた。

 

 その転売屋からこのCDを手に入れてしまった、だなんて。

 知らなきゃ良かった。後悔という文字が、アーネストの頭の中で大きく膨れ上がっていく。

 

「自分だけの利益のために動いている奴らから買うとか。……不買運動して在庫抱え込んで困らせないと!」
「ああ。ちなみにそれ、貰ったやつだ」
「はあ!?」

 

 どうも今日は大声を出さねばならない日らしい。ついでに驚きすぎて情緒が不安定になりそうな日だとも思った。自分の利益最優先、金もうけのために動いてる奴らが売らずに他人にあげるなんて。

 

「転売屋やってる知り合いがさ、儲かると思って買ってオークションに出したはいいけど、誰も買ってくれなくて、持ってても邪魔だし捨てるって言っててよ。じゃあ捨てるならくれって言って譲り受けた」

 

 ほらお前、確かこのロックバンド好きだったろ?
 と、ニコルが言う。アーネストは話を聞いているうちに燃え尽きた灰のように、気力を失っていた。
 言葉も出ないとはまさにこの事だ。自分にとって宝物ともいえるこのCDは、彼らにとっては売れなければ何も価値がないガラクタだと言われているようなものだった。

 

「儲けようとしている奴らが儲からない物を大事に扱う訳ないよなあ。限定ものでも金にならなきゃ廃棄だよ。それで別の儲かるビジネスに切り替えるって訳」

 

 三千枚ほどあったはずの初回限定CDは、アーネストの持っているCDを含め、二千枚しか、この世に残っていないという。

 

 

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 転売屋をしている人って、なかなかしぶとく生きてそうだなって思って、気が付いたら書いていた。

 自分の利益を得る為に、転売行為だけにとどまるだろうか。いや、ならない的な何かが自分の中にあって、不買運動とかいう転売行為そのものだけ困らせることをしても、多少の痛手はつくものの、逮捕されたりしない限り致命傷にはならないよねっていう。
なんとなく、彼らは賢いと思っているせいかな。ずるをする方面で賢くなった人達って感じ。だから真っ当な方法をとっても適わないなって思ってる。

 真っ当な方法で太刀打ちできるのなら、するけどね。大体うまくいかないから、どうしたものか。

 そして最初はもっと明るいブラックジョークのつもりで書こうとしていたのに、気が付いたらそうじゃなくなっている……。

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