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custoom

「あれ、おかしいな」


 カチャカチャと音をたてて、ボタンを押しますが、うんともすんとも言いませんでした。今度は機械の裏側を見ます。何の変哲もありません。中を開けるとCDが現れました。CDには一つも傷がなく、機会の中もこれと言って特に何か変わった様子はありませんでした。

 

「壊れたかな」

 

 アーネストという青年は、さっきまで確かめていたCDプレイヤーを両手で持ち、ため息をついたのでした。数年間、大好きな音楽を聞かせてくれた相棒が、息を引き取ってしまったのです。もったいない。このCDプレイヤーはとても使い心地がよくて、もう世には出回っていないから、大切に使っていたのに。肩を落としますが、やはり、CDプレイヤーは何も聞こえてこないのでした。

 

「どうした?」

 

 そんなとき、アーネストに声をかける人物が現れました。黒い髪と白い髪が混ざり合い、よく言えば銀色、悪く言えば灰色の神をした若い男性でした。表情は筋肉に接着剤を注入されたかのようにかたく、ぴくりとも眉一つ、動く気配すらありません。

「あ、ロバートさん。壊れちゃったみたいで」


 実は彼はアーネストと同じ家に住む、所謂ハウスメイトで、名前をロバートというのでした。そのため、彼が鉄面皮であっても平気です。なんならちょっと怖い感じの目つきもすでに慣れたものでへっちゃらになっていたのでした。そんな同居人の質問に、アーネストは答えながら、手の中にあるCDプレイヤーを見せます。
 ロバートは「なるほど」と言って数秒黙ったかと思うと、「貸してみろ」と、手を差し出してきました。


「え? 直せるんです?」


 アーネストは驚きに満ちた表情で彼の顔を見返しました。一緒に暮らしていて、何かしらを修理している光景を、みたことがなかったからです。この前も水道管が壊れていたときも、ハンスに頼んで直してもらっていました。そのうえお世辞にも手先が器用な人物にも見えません。しかし、彼は目の前で不安にならない音を立てて器用にCDプレイヤーのカバーを外しているではありませんか。人は見かけによらない。少し、ロバートという人物の認識を改める必要があるなと、アーネストは感心したのでした。


「これでいいだろう」


 そう言って、作業を終えたロバートはアーネストにCDプレイヤーを返しました。


「なんてことをしてくれたのでしょう」


 シルバーメタリックのカバーは綺麗に取り除かれたまま、電池や基盤がこれでもかと存在を主張しているではありませんか。それはまるで、スケルトンのカバーをつけてもらっているかのよう。しかし、このスケルトンのカバーは空気というもので出来上がっておりました。そして、基盤の隙間からは本来見えるはずのないケーブルが、基盤のど真ん中から突き出ています。その姿はまさに、芸術の域です。名をつけるとするならそう「改悪」でしょうか? プレイヤーからは入っているCDにはないはずの音楽が流れています。その音は半音階で、ビブラートが聞いていて、うまい具合に不安になる和音を奏でているのであります。なんならもう少しよく聞くと呻くようなささやき声が聞こえてきそうですね。この芸術品を作り上げた作者から「ちゃんと音が聞こえるから直ったな」と、ありがたいコメントも頂きました。直ってない。何一つ直っていない……。


 アーネストは全身から力が抜けていくのを感じます。確かに、音は出ています。うんともすんとも言うようになりました。ですが、これは一体どういうことでしょう。劇的なビフォーアフターが起きております。しかし、それはアーネストとは予想の斜め下を行く形でありました。


 人に期待してはいけない。もしくは、普段からやっていないことをやろうとするときは細心の注意を払って、頼まなければならない。アーネストはそう心に戒めて、予想の斜め下に改造されたCDプレイヤーをゴミ箱へ送り、新しいCDプレイヤーを買いに、電気屋を歩き回ることになったのでした。

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